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中平卓馬『サーキュレーション−−日付、場所、行為』

1971年、パリ。世界各国から若い芸術家たちが参加したビエンナーレを舞台に、中平卓馬は「表現とは何か」を問う実験的なプロジェクトを敢行する。「日付」と「場所」に限定された現実を無差別に記録し、ただちに再びそれを現実へと「循環」させるその試みは、自身の写真の方法論を初めて具現化するものだった。

総頁数:320ページ
写真:モノクロ257点
体裁:A5判変型、ケース入
定価:5,000円+税
ISBN:978-4-905254-01-0
ブックデザイン:服部一成

収録テキスト(和英併記)
中平卓馬「写真、一日限りのアクチュアリティ」「現代芸術の疲弊??第7回パリ青年ビエンナーレに参加して」「アフリカから帰る」
八角聡仁「残滓の光学−−中平卓馬1971パリ」

発売:2012年4月26日

1971年、写真家・中平卓馬は若い芸術家たちを対象にした国際展、パリ青年ビエンナーレに参加、現地で撮影し、その日のうちに展示するという約1週間の実験的なプロジェクト《Circulation: Date, Place, Events》に挑んだ。パリの街、そこに行き交う人々や車、さまざまな印刷物、会場に展示中の自らの作品や他の作家たちの作品、地下鉄構内、テレタイプで配信されるニュース記事、テレビから流れる映像、ホテルの部屋に運ばれた朝食や干した下着……、中平はパリで出会ったあらゆる事象を「無差別」に記録し、その日のうちに展示した。プリントは日々増殖し、壁面のみならず、床にまで貼りめぐらされていった。

主催者とのいざこざがきっかけで、会期終了2日前に展示したプリントを自ら引き剥がし、作品撤去という苛烈な結末をたどることになったが、帰国直後に執筆したエッセイでは、「この仕事を通じて、少しだけ自分のいうこととやることが一致し始めたことをかすかに感じはじめている」と、自身の写真の方法論を具現化した試みとしてその手応えを語っている。

1970年に60年代半ば以降の作品をまとめた一冊目の写真集『来たるべき言葉のために』を発表した中平は、1973年に刊行された映像評論集『なぜ、植物図鑑か』の表題エッセイで、自身の初期作品を批判的に検証し、大きく転換を図ることを宣言するが、これまでごく一部の内容しか知られていなかったこの1971年の《Circulation: Date, Place, Events》は、まさにその転換の途上での一つの実践だった。

こうして現地制作のインスタレーションとして発表された《Circulation ― Date, Place, Events》は、カメラでとらえた現実を、即時にプリントとして現実に差し戻すという行為そのものが作品だったと言うことができる。したがって、本書は、そのインスタレーションの再現を目的とするものではなく、むしろ写真集という別のあり方で、71年のパリでの中平卓馬の視線に、新たに触れようとしている。

中平卓馬(なかひら・たくま)
1938-2015

東京生まれ。東京外国語大学スペイン科卒業後、総合雑誌『現代の眼』編集者を経て、60年代半ばから写真を撮りはじめ、同時期よりさまざまな雑誌に写真や映画に関する執筆を開始する。68〜70年には多木浩二、高梨豊、岡田隆彦、森山大道とともに「思想のための挑発的資料」と銘打った写真同人誌『プロヴォーク』を刊行。70年に写真集『来たるべき言葉のために』を上梓した後、73年には映像論集『なぜ、植物図鑑か』で、それまでの自作を批判的に検証。77年に篠山紀信との共著『決闘写真論』を刊行直後、病に倒れて生死の境をさまよい、記憶の大半を失うが、以後も写真家としての活動を継続。2003年には横浜美術館で初期から2003年にいたる800点におよぶ作品群による「中平卓馬展 原点復帰−横浜」を開催し、その図録を兼ねた写真集『原点復帰−横浜』刊行。以降も新作による個展開催、また内外のグループ展にも参加。2011年には大阪Sixにて、大規模な新作展「キリカエ」を開催された。